力の叛逆人で
厭世の、猥弱の、虚無の冒涜を知つてるばかりだ。
ああ逃げ道はどこにもない
おれらは絶望の逃走人だ。


 僕等の親分

剛毅な慧捷の視線でもつて
もとより不敵の彼れが合圖をした
「やい子分の奴ら!」
そこで子分は突つぱしり 四方に氣をくばり
めいめいのやつつける仕事を自覺した。

白晝商館に爆入し
街路に通行の婦人をひつさらつた
かれらの事業は奇蹟のやうで
まるで禮儀にさへ適つてみえる。
しづかな、電光の、抹殺する、まるで夢のやうな兇行だから
市街に自動車は平氣ではしり
どんな平和だつてみだしはしない。
もとより不敵で豪膽な奴らは
ぬけ目のない計畫から
勇敢から、快活から、押へきれない欲情から
自由に空をきる鳥のやうだ。
見ろ 見ろ 一團の襲撃するところ
意志と理性に照らされ
やくざの祕密はひつぺがされ
どこでも偶像はたたきわられる

剛毅な 慧捷の瞳《ひとみ》でもつて
僕等の親分が合圖をする。
僕等は卑怯でみすぼらしく 生き甲斐もない無頼漢《やくざ》であるが
僕等の親分を信ずるとき
僕等の生活は充血する
仲間のみさげはてた奴らまでが
いつぽんぶつこみ 拔きつれ
まつすぐ
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