――である。現に卷初の「蝶を夢む」「腕のある寢臺」「灰色の道」「その襟足は魚である」等の四篇の如きは、當然「青猫」に入れるべくして誤つて落稿したのである。(もし忠實な讀者があつて、此等の數篇を切り拔き「青猫」の一部に張り入れてもらへば至幸である。)とはいへ、中には私として多少の疑案を感じてゐるところの、言はば未解決の習作が混じてゐないわけでもない。むしろさういふのは、一般の讀者の鑑賞的公評にまかせたいのである。
 詩集の銘を「蝶を夢む」といふ。卷頭にある同じ題の詩から取つたのである。

   西暦千九百二十三年[#地から3字上げ]著者
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蝶を夢む 詩集前篇
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この章に集めた詩は、「月に吠える」以後最近に至るまでの作で「青猫」の選にもれた分である。但し内八篇は「青猫」から再録した。
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 蝶を夢む

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼《はね》をひろげる
蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と
紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。
わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。
しづかにわたし
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