青猫
萩原朔太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)激情《パツシヨン》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)困|憊《ぱい》し

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#蛇の目、1−3−27]
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  序

      ※[#蛇の目、1−3−27]

 私の情緒は、激情《パツシヨン》といふ範疇に屬しない。むしろそれはしづかな靈魂ののすたるぢや[#「のすたるぢや」に傍点]であり、かの春の夜に聽く横笛のひびきである。
 ある人は私の詩を官能的であるといふ。或はさういふものがあるかも知れない。けれども正しい見方はそれに反對する。すべての「官能的なもの」は、決して私の詩のモチーヴでない。それは主音の上にかかる倚音である。もしくは裝飾音である。私は感覺に醉ひ得る人間でない。私の眞に歌はうとする者は別である。それはあの艶めかしい一つの情緒――春の夜に聽く横笛の音――である。それは感覺でない、激情でない、興奮でない、ただ靜かに靈魂の影をながれる雲の郷
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