ない、なぜならばこの「自然的でない」といふ事實は、この場合に於て「原始的でない」を意味する。しかして文明の意義はすべての「原始的なもの」を「人文的なもの」に向上させるにある。されば大人が子供よりも、文明人が野蠻人よりも、より價値の高い人間として買はれるやうに、そのやうにまた我等の成長した敍情詩も、それが自然的でない理由によつてすら[#「自然的でない理由によつてすら」に丸傍点]、原始の素樸な民謠や俗歌よりも高價に買はるべきではないか。けだし自由詩は、近世紀の文明が生んだ世界の最も進歩した詩形[#「世界の最も進歩した詩形」に丸傍点]である。そして此所に自由詩の唯一の價値がある。
 世界の敍情詩の歴史は、最近佛蘭西に起つた象徴主義の運動を紀元として、明白に前後の二期に區分された。前派の敍情詩と後派の敍情詩とは、殆んど本質的に異つて居る。新時代の敍情詩は、單なる「純情の素朴な詠嘆」でなく、また「觀念の平面的なる敍述」でもなく、實に驚くべき複雜なる叡智的の内容と表現とを示すに至つた。(但し此所に注意すべきは、所謂「象徴詩」と「象徴主義」との別である。かつてボドレエルやマラルメによつて代表された一
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