の光るいのちの葬列か
光る精神の病靈か
物みなしぜんに腐れゆく岸邊の草むら
雨に光る木材質のはげしき匂ひ。


 佛の見たる幻想の世界

花やかな月夜である
しんめんたる常盤木の重なりあふところで
ひきさりまたよせかへす美しい浪をみるところで
かのなつかしい宗教の道はひらかれ
かのあやしげなる聖者の夢はむすばれる。
げにそのひと[#「そのひと」に傍点]の心をながれるひとつの愛憐
そのひと[#「そのひと」に傍点]の瞳孔《ひとみ》にうつる不死の幻想
あかるくてらされ
またさびしく消えさりゆく夢想の幸福とその怪しげなるかげかたち
ああ そのひとについて思ふことは
そのひとの見たる幻想の國をかんずることは
どんなにさびしい生活の日暮れを色づくことぞ
いま疲れてながく孤獨の椅子に眠るとき
わたしの家の窓にも月かげさし
月は花やかに空にのぼつてゐる。

佛よ
わたしは愛する おんみの見たる幻想の蓮の花瓣を
青ざめたるいのちに咲ける病熱の花の香氣を
佛よ
あまりに花やかにして孤獨なる。


 鷄

しののめきたるまへ
家家の戸の外で鳴いてゐるのは鷄《にはとり》です
聲をばながくふるはして
さむしい田
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