人間と同じく、神神にもまた種種の階級がある。そしてその階級の低いものは、無智な貧しい人人と共に、裏街の家の小さな神棚や、農家の暗い祭壇や、僅かばかりの小資本で、ささやかな物を賣つて生計してゐるところの、町町の隅の駄菓子屋、飲食店、待合、藝者屋などの神棚で、いつも侘しげに生活してゐる。日本の都會では、露路の至るところに、小さな侘しげな祠《ほこら》があり、狐や、猿や、大黒天や、鬼子母神や、その他の得體のわからぬ神神が、信心深く祭られてゐる。そして田舍には、尚一層多くの神神が居る。すべての農民等は、邸の中に氏神と地祖神を祭つて居り、田舍の寂しい街道には、行く所に地藏尊と馬頭觀音が安置され、暗い寂しい竹藪の陰や、田の畔《くろ》の畦道《あぜみち》毎には、何人もかつてその名を知らないやうな、得體のわからぬ奇妙な神神が、その存在さへも氣付かれないほど、小さな貧しい祠《ほこら》で祀られてゐる。
 すべて此等の神神を拜むものは、その日の糧に苦しむほど、憐れに貧しい小作人の農夫等である。或はその家族の女共である。都會に於ても同じやうに、かうした神神に供物を捧げる人人は、概ね皆社會の下層階級に屬するとこ
前へ 次へ
全85ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング