らんじ》として笑へ!


 虚數の虎

 博徒等集まり、投げつけられたる生涯の機因《チヤンス》の上で、虚數の情熱を賭け合つてゐる。みな兇暴のつら魂《だましひ》。仁義《じんぎ》を構へ、虎のやうな空洞に居る。


 自然の中で

 荒寥とした山の中腹で、壁のやうに沈默してゐる、一の巨大なる耳を見た。


 觸手ある空間

 宿命的なる東洋の建築は、その屋根の下で忍從しながら、甍《いらか》に於て怒り立つてゐる。


 大佛

 その内部に構造の支柱を持ち、暗い梯子と經文を藏する佛陀よ! 海よりも遠く、人畜の住む世界を越えて、指のやうに尨大なれ!


 家

 人が家の中に住んでるのは、地上の悲しい風景である。


 黒い洋傘

 憂鬱の長い柄から、雨がしとしとと滴《しづく》をしてゐる。眞黒の大きな洋傘!


 國境にて

 その背後《うしろ》に煤煙と傷心を曳かないところの、どんな長列の汽車も進行しない!


 恐ろしき人形芝居

 理髮店の青い窓から、葱のやうに突き出す棍棒。そいつの馬鹿らしい機械仕掛で、夢中になぐられ、なぐられて居る。


 齒をもてる意志

 意志! そは夕暮の海よりして
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