秋と漫歩
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)甚《はなは》だ
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)武蔵|小山《こやま》
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四季を通じて、私は秋という季節が一番好きである。もっともこれは、たいていの人に共通の好みであろう。元来日本という国は、気候的にあまり住みよい国ではない。夏は湿気が多く、蒸暑いことで世界無比といわれているし、春は空が低く憂鬱であり、冬は紙の家の設備に対して、寒さがすこしひどすぎる。(しかもその紙の家でなければ、夏の暑さがしのげないのだ。)日本の気候では、ただ秋だけが快適であり、よく人間の生活環境に適している。
だが私が秋を好むのは、こうした一般的の理由以外に、特殊な個人的の意味もあるのだ。というのは、秋が戸外の散歩に適しているからである。元来、私は甚《はなは》だ趣味や道楽のない人間である。釣魚《つり》とか、ゴルフとか、美術品の蒐集《しゅうしゅう》などという趣味娯楽は、私の全く知らないところである。碁、将棋の類は好きであるが、友人との交際がない私は、めったに手合せする相手がないので、結局それもし
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