る時無草もうちふるへ
若き日の嘆きは貝殼もてすくふよしもなし。
ひるすぎて空はさあをにすみわたり
海はなみだにしめりたり
しめりたる浪のうちかへす
かの遠き渚に光るはなにの魚ならむ。
若ければひとり濱邊にうち出でて
音《ね》もたてず洋紙を切りてもてあそぶ
このやるせなき日のたはむれに
かもめどり涯なき地平をすぎ行けり。
緑蔭
朝の冷し肉は皿につめたく
せりい[#「せりい」に傍線]はさかづきのふちにちちと鳴けり
夏ふかきえにしだ[#「えにしだ」に傍線]の葉影にかくれ
あづまやの籐椅子《といす》によりて二人なにをかたらむ。
さんさんとふきあげの水はこぼれちり
さふらんは追風《つゐふう》にしてにほひなじみぬ。
よきひとの側へにありてなにをかたらむ
すずろにもわれは思ふゑねちや[#「ゑねちや」に傍線]のかあにばる[#「かあにばる」に傍線]を
かくもやさしき君がひとみに
海こえて燕雀のかげもうつらでやは。
もとより我等のかたらひは
いとうすきびいどろの玉をなづるがごとし
この白き鋪石をぬらしつつ
みどり葉のそよげる影をみつめゐれば
君やわれや
さびしくもふたりの涙はながれ出でにけり。
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