に思ふ。
ともあれ、この詩集に於いては、孤獨に生きねばゐられなかつた氏が、孤獨に生きる事の苦しさを告白した、悲痛なる一種の記録である。今、自分が氏に就いて語らうとするのは早計である。けれ共、氏に就いて語らうとする者は、この詩集を繙いて、如何に如實なる氏を知る事が出來るであらう。生活者としての氏を識る者は、藝術家としての氏を敬する以上に、惱ましいまでの親和を感ずるであらう。
尠くもこの詩集によつて、氏に一轉化の來たされんとしつつあるは、誤らない事實だ。昨日の高踏的詩風に、この現實的なバツクの浸潤を加へる事によつて、氏の藝術境は一層の深刻を加へる事であらう。私は此等の詩に接して、更に更に何等のあます所なく、どんなに愉快な喜びの念にうたれるか知れない。と共に、苦蓬酒のやうな生活の中に、隱忍的の苦を送つてゐられる氏を、強い感激的な念にうたれざるを得ない。以上を跋文の形として、日頃の喜びと、懷しさを、更に更に高く捧げたく思ふ私である事は、世の多くの讀者とまたすこしも變らないのである。
大正十三年初秋
[#地から3字上げ]萩原恭次郎
底本:「萩原朔太郎全集 第二卷」筑摩書房
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