苦しみの叫びは心臟を破裂せり。
かくばかり
つれなきものへの執着をされ。
ああ生れたる故郷の土《つち》を蹈み去れよ。
われは指にするどく研《と》げるナイフをもち
葉櫻のころ
さびしき椅子に「復讐」の文字を刻みたり。
[#改丁]

郷土望景詩の後に
[#改ページ]

 ※[#ローマ数字1、1−13−21]  前橋公園

 前橋公園は、早く室生犀星の詩によりて世に知らる。利根川の河原に望みて、堤防に櫻を多く植ゑたり、常には散策する人もなく、さびしき芝生の日だまりに、紙屑など散らばり居るのみ。所所に悲しげなるベンチを据ゑたり。我れ故郷にある時、ふところ手して此所に來り、いつも人氣なき椅子にもたれて、鴉の如く坐り居るを常とせり。


 ※[#ローマ数字2、1−13−22]  大渡橋

 大渡橋《おほわたりばし》は前橋の北部、利根川の上流に架したり。鐵橋にして長さ半哩にもわたるべし。前橋より橋を渡りて、群馬郡のさびしき村落に出づ。目をやればその盡くる果を知らず。冬の日空に輝やきて、無限にかなしき橋なり。


 ※[#ローマ数字3、1−13−23]  新前橋驛

 朝、東京を出でて澁川に行く人
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