物を積みて馬を曳き
このすべて寒き日の 平野の空は暮れんとす。


 廣瀬川

廣瀬川白く流れたり
時さればみな幻想は消えゆかん。
われの生涯《らいふ》を釣らんとして
過去の日川邊に糸をたれしが
ああかの幸福は遠きにすぎさり
ちひさき魚は眼《め》にもとまらず。


 利根の松原

日曜日の晝
わが愉快なる諧謔《かいぎやく》は草にあふれたり。
芽はまだ萌えざれども
少年の情緒は赤く木の間を焚《や》き
友等みな異性のあたたかき腕をおもへるなり。
ああこの追憶の古き林にきて
ひとり蒼天の高きに眺め入らんとす
いづこぞ憂愁ににたるものきて
ひそかにわれの背中を觸れゆく日かな。
いま風景は秋晩くすでに枯れたり
われは燒石を口にあてて
しきりにこの熱する 唾《つばき》のごときものをのまんとす。


 公園の椅子

人氣なき公園の椅子にもたれて
われの思ふことはけふもまた烈しきなり。
いかなれば故郷《こきやう》のひとのわれに辛《つら》く
かなしきすもも[#「すもも」に傍線]の核《たね》を噛まむとするぞ。
遠き越後の山に雪の光りて
麥もまたひとの怒りにふるへをののくか。
われを嘲けりわらふ聲は野山にみ
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