に殘された、ただひとつの生えざる苗[#「生えざる苗」に丸傍点]であらねばならぬ。
そしてそれをかんずるとき、私どもの悲しい絶望の底にも、實にはつきりとした力をかんずることができるのである。
思ふにこの苗は、いつかは私どものくらい心に生生とした芽を生やすときがくるであらう。そしてそこには新らしい人類のキリストがあらはれ、人は愛の目ざめの幸福に呼びおこされる。わたしは信ずる。あの悲しいイワンは、いつかはかならず救はれるにちがひない。わたしはそれを心から祈つてゐる。生えざる青空の苗に向つて祈つてゐる。
ADVENTURE OF THE MYSTERY
巧みな演奏者によつて奏された美しい音樂をきくとき、その旋律の高潮に達したとき、私共のしばしば味ふことのできるあの一種の快よい感覺と、その瞬間の誘惑にみちた世界の敍景に就いて。
凡そ音樂の展開する世界の眺望はたぐひなきものである。それは現實の世界では到底想像することもできない、一種の異樣な香氣とかがやきに充ちた世界である。
そこではあるひとつの不思議な情緒が、魔術のやうな魅惑を以て、私共の精神の全面を支配するやうに思はれる。
その
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