に哀しみの瞳《ひとみ》をあげて合唱しあなや合讚したてまつる。
さんたくるす
さんたくるす
遊樂至上のうみのうへ、岬をめぐる浪のうたかた、浪とほれば鳥禽の眼にも見えず、況んや白日の幽靈は、いと遙かなる地平にかげをけちゆくごとし。
ああ、まぼろしのかもめどり、渚はとほく砂丘はさんらん、十字の上に耶蘇はさんらん、女《をみな》の胴は砂金に研がれ、その陰部もさんらん、光り光りてあきらかに眞珠をはらむ。
白日のもと、わが肉體は遊樂し、沒落し、浮びかつ浪を切る。
秋日歸郷
―妹にあたふる言葉―
秋は鉛筆削のうららかな旋囘に暮れてゆく。いたいけな女心はするどくした炭素の心《しん》の觸覺に、つめたいくちびるの觸覺にも涙をながす。
しみじみと涙をながす。とき子よ、君さへ青い洋紙のうへに魚を泳がしむるの秋だ。眞に秋だ。
ああ、春夏とほくすぎて兄は放縱無頼、酒狂して街にあざわらはれ、おんあい至上のおんちちははに裏切り、その財寶《たから》を盜むものである。
おん身がにくしんの兄はあまりに憔悴し、疾患し、酒亂のあしたに菊を摘まむとして敬虔無上の涙せきあへぬ痴漢である。
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