はまつくらになつてしまつた。
私の病氣はますます青くなり。おとろへ。
海のあなたを夢みるやうに、うらうら櫻の花が咲きそめ。
[#地から5字上げ]―四月三日―


 言はなければならない事

 私は子供のときからよくかういふ事を考へるくせがある。自分が若しある何等かの重大なる神罰を蒙るとか、又は氣味の惡い魔術にかかるとかして……お伽話にあるやうに……私の肉體が人間以外の動物に變形した場合の生活はどうであるかと。
 たとへば私が人氣のない寂しい森を散歩して居る中に、突然 Fairy といふやうなものが現れて私といふ人間を一疋の犬に變形してしまふ。
 私は尻尾をひきずりながら主人の家、ではない私自身の家に歸つてくる、私はいきなり懷かしい母の姿を見つけてこの恐ろしい事件の顛末を訴へようと試みる。併し、母は一疋の見知らぬ犬としか私を認めてくれない。私がいろいろな仕方で、尻尾をふつたり、吠えたり、嘗めたりするにもかかはらず母には少しも犬の意志が通じない。そのうへ私が悲鳴をあげて泣き叫ぶにもかかはらず、種種な迫害を加へた上、私を庭の外へ追ひ出してしまふ。
 世の中にこんな取り返しのつかない悲慘な出來
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