内容が異っている。この書の考えている事は、詩の部門的思考でなくして、文学、芸術、及び人生の全般に於ける詩の地位が、正しくどこにあるかを判別するところにある。故にこの書物の論ずる範囲は、単に韻文学としての詩に限らず、本質に於て詩という言語が包括し得る、すべての文芸一般に及んでいる。(実に或る意味からみて、本書は一種の小説論でさえある。)
 思うに「詩」という言語ほど、従来広く一般的に使用されて、しかもその実体の不可解であり、意味の掴《つかま》えどころなく漠然としたものはないであろう。本書はこの曖昧《あいまい》をはっきり[#「はっきり」に傍点]させ、詩の詩たる正体を判然明白に解説した。(自分の知っている限りこうした書物は外国にも無いようだ。)そこで自分の読者は、すくなくともこの書物から、詩という観念が意味するところの、真の根本の定義を知り得るだろう。そしてこれが解れば、文学の最も重大な精神が解ったのである。故に自分の望むところは、単に詩の作家ばかりでなく、いやしくも詩的精神の何物たるかを知ろうとしている、すべての文学者及び芸術家の全部に向って、この書物を読んでもらいたいのである。諸君がもし
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