情は押しつぶされ、詩は全く健全な発育を見ることができなかった。「こうした暗澹《あんたん》たる事態の下に」自分は幾度か懐疑した。「詩は正《まさ》に亡《ほろ》びつつあるのではないか?」と。それほど一般の現状が、ひどく絶望的なものに見えた。
けれども今や、詩を求めようとする思潮の浪《なみ》が、新しい文学から起ってきた。すべての新興文学の精神は、すくなくとも本質に於ける詩を叫んでいる。おそらくは彼等によって、文学の風見《かざみ》が変るだろう。そして我々のあまりに鎖国的な、あまりに島国的な文壇思潮が、もっと大陸的な世界線の上に出てくるだろう。実に自分は長い間、日本の文壇を仇敵視《きゅうてきし》し、それの憎悪《ぞうお》によって一貫して来た。あらゆる詩人的な文学者は――小説家でも思想家でも――日本に於ては不遇であった。のみならず彼等の多くは、自殺や狂気にさえ導かれた。――正義は復讐《ふくしゅう》されねばならない。
だが既に時期は来ている。何よりも民衆が、文学に於ける詩を求めている。彼等は文壇を見捨ててしまった。そしてより[#「より」に傍点]詩的精神のある彼等の文学――即ち大衆文学――の方に走って
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