は、文学上に於て盛んに衝突し、異端顕正の銃火をまじえ、長く一勝一敗の争論を繰返してきた。この不思議なる争闘は、けれども必ずしも無意味でなかった。なぜならばそれによって、表現に於ける二大分野の特色を明らかにし、相互の旗色を判然とすることができたからだ。よって激戦の陣地について、左右両軍の主張を聞き、突撃に於ける文学上の合図を調べてみよう。
文学上に於ける主観派と客観派との対立は、常に浪漫派と自然派、もしくは人道派と写実派等の名で呼ばれている。先《ま》ず客観派に属する文学、即ち自然主義や写実主義の言うところを聞いてみよう。
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・ 感情に溺《おぼ》れる勿《なか》れ。
・ 主観を排せよ。
・ 現実に根ざせ。
・ あるがままの自然を描け!
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これに対して主観派に属する文学、即ち浪漫主義や人道主義の言うところはこうである。
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・ 情熱を以て書け!
・ 主観を高調せよ。
・ 現実を超越すべし。
・ 汝《なんじ》の理念を高く掲げよ!
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両派の主張を比較してみよ。いかに両方が正反対で、著るしいコントラストを
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