を掴んだものである。生きて働く心理学[#「生きて働く心理学」に傍点]である。
すべてのよい叙情詩には、理屈や言葉で説明することの出来ない一種の美感が伴ふ。これを詩のにほひ[#「にほひ」に傍点]といふ。(人によつては気韻とか気稟とかいふ)にほひ[#「にほひ」に傍点]は詩の主眼とする陶酔的気分の要素である。順つてこのにほひ[#「にほひ」に傍点]の稀薄な詩は韻文としての価値のすくないものであつて、言はば香味を欠いた酒のやうなものである。かういふ酒を私は好まない。
詩の表現は素樸なれ、詩のにほひ[#「にほひ」に傍点]は芳純でありたい。
私の詩の読者にのぞむ所は、詩の表面に表はれた概念や「ことがら」ではなくして、内部の核心である感情そのものに感触してもらひたいことである。私の心の「かなしみ」「よろこび」「さびしみ」「おそれ」その他言葉や文章では言ひ現はしがたい複雑した特種の感情を、私は自分の詩のリズムによつて表現する。併しリズムは説明ではない。リズムは以心伝心である。そのリズムを無言で感知することの出来る人とのみ、私は手をとつて語り合ふことができる。
『どういふわけでうれしい?』とい
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