と薫風は私の生活を貴族にする。したたる空色の窓の下で、私の愛する女と共に純銀のふおうく[#「ふおうく」に傍点]を動かしたい。私の生活にもいつかは一度、あの空に光る、雲雀料理の愛の皿を盗んで喰べたい。


感傷の手

わが性のせんちめんたる、
あまたある手をかなしむ、
手はつねに頭上にをどり、
また胸にひかりさびしみしが、
しだいに夏おとろへ、
かへれば燕はや巣を立ち、
おほ麦はつめたくひやさる。
ああ、都をわすれ、
われすでに胡弓を弾かず、
手ははがねとなり、
いんさんとして土地《つち》を掘る。
いぢらしき感傷の手は土地を掘る。


山居

八月は祈祷、
魚鳥遠くに消え去り、
桔梗いろおとろへ、
しだいにおとろへ、
わが心いたくおとろへ、
悲しみ樹蔭をいでず、
手に聖書は銀となる。




苗は青空に光り、
子供は土地《つち》を掘る。

生えざる苗をもとめむとして、
あかるき鉢の底より、
われは白き指をさしぬけり。


殺人事件

とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびとのあひだから、

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