蒲原有明に帰れ
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)この恋《ラブ》の如く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)新しき正派[#「新しき正派」に丸傍点]
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僕、先月末出京しました。東京は我があこがれの都。雪のふる夜も青猫の屋根を這ふ大都会。いまは工場と工場との露地の間、職工の群がつてゐる煤煙の街に住んでゐます。黒い煤煙と煉瓦の家の並んでゐる或る貧乏なまづしい長屋に、僕等親子四人が悲しい生活をしてゐます。どうにかしてパンの食へる間だけは、乞食をしても東京を離れたくない。いつまでもこのプロレタリヤの裏町に住んでゐたい。鴉のやうに。
蒲原有明は僕の崇拝する唯一の詩人。貴君がそれに着眼されたるは流石です。実をいへば詩集「月に吠える」出版の時、序文を是非蒲原有明先生にたのみたく再三書簡を以て懇願したるも返事を下さらないので、遺憾ながら意を果さなかつたやうなわけです。かく僕が蒲原氏の序を切望したるは、僕の詩を以て蒲原氏の新しき正派[#「新しき正派」に丸傍点]を自任したからです。有明詩集中、独絃哀歌[#「独絃哀歌」に丸傍点]あ
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