たりの作品は実に名篇であつて、今よんでも涙が出るほど好い。何と言ふか、情緒が濃厚でしかも神秘的であつて、あたかもポオの恋愛抒情詩の如く、それで東洋風の香気が強い。「恋」の神秘にして甘き情緒は、僕、有明によつて始めて知れり。この恋《ラブ》の如く神秘的にして、本質的に音楽の情緒に近いものはない。僕の「月に吠える」中なる二三の作品が如き、正にこの神韻を摸してこれを俗化[#「俗化」に丸傍点]せるものなり。
 かく僕が蒲原先生を崇拝せるにかかはらず、或る人から風聞する所によれば、蒲原氏は痛く僕に悪感を抱いてゐるさうです。然してその理由は、僕が嘗て蒲原氏の詩を悪罵したといふのださうです。これ実に意外のことで、勿論、僕にとつて全然おぼえのないことであるから、よく調べてみた所、かつて僕が文章世界で三木露風氏及びその一派を極端に罵倒し、当時の詩壇の所謂「象徴詩」なるものを徹底的に排斥した。然るに後になつて聞けば、三木露風氏の一派は自ら「蒲原有明の正流」と称し、彼等の「日本象徴詩集」なる書物にも、日本の象徴詩の開祖は蒲原有明で、これを系統して発展したものが露風氏及びその一派であると書いてあります。これによ
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