つて思ふに、僕が露風氏等の所謂「象徴詩」を痛撃したことが、間接に蒲原氏の耳に誤伝され、当時既に詩壇を退いてゐた蒲原氏にまで誤つて自家のこととして偏解されたのらしい。風説によれば、僕からの序の依頼をみて蒲原氏曰く「人の芸術を悪罵しておきながら、その同じ人に対して序をたのむとは図々しい奴もあつたものだ」と言はれたさうです。
 始め、蒲原氏が序の懇願に応じてくれなかつた時、多分天才にありがちの物臭さからと思ひ、僕は何とも思はずに居ましたが、後日(最近)になつて上述の風説を知り、自らその意外に驚くと共に、蒲原氏に対して自分の全く曲解されたことが口惜しく残念でたまらずよつてこの消息を近く何かの雑誌に発表しようと思つてゐた所であつた。幸ひ貴君の手紙によつて書くヒントを得たから、全文或いは概要を貴誌に掲載して貰へれば幸甚です。かかる弁明は、むしろ「常識ある頭脳」に対して愚劣事にすぎないけれども、世間には存外馬鹿者が多いから念のため注意しておく。即ち蒲原有明氏と三木露風氏とは、詩格に於ても詩想に於ても、全然別個のものに属し、更に相関する所なし。詳説すれば、蒲原氏の詩風は浪漫的にして、しかも情緒の濃厚な
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