家庭の痛恨
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)公《おほやけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)家庭そのもの[#「家庭そのもの」に傍点]
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西洋の風習では、その妻が良人と共に社交に出で、多くの異性と舞踏をし、宴会の席上で酒をすすめ、ピアノを弾き、唄をうたひ、文学を論じ、時に艶めかしき媚態を示して、人々の注意と愛情を惹かうと努める。然るに東洋の風習は、これと全くちがつて居る。我々の社会にあつては、すべてさうした女の仕事が、芸者と称する特殊な職業婦人に一任されてる。芸者等は、全くその目的からのみ養成され、我々の宴会や社会に於ける、一切の事務を受けもつてゐる。実に我々の日本人等は、芸者なしに一の社交や宴会をもなし得ないのだ。なぜなら我々の妻たちは、深くその家庭に押し込められ、純粋に母性としての訓育を受けてることから、全く社交上の才能を欠いでゐるから。つまり言へば吾々は、西洋人がその一人の女に課する二つの要求――家庭に於ける母性と社交に於ける娼婦性――とを、初めから厳重に分離されて、家庭には妻をおき、社交界には芸者を
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