易者の哲理
萩原朔太郎
すべての易者たちは、彼の神祕な筮竹を探りながら、威嚇するやうな調子で言ふ。人間の一生は、天に於ける九星の宿位によつて、生れた最初の日から死ぬ時まで、必然に避けがたく豫定されてる。それ故に我々は、星占學の記入された簿記を調べて、君の生涯の第一頁から、奧付の終頁までを、確實に誤りなく、讀むことができるのであると。
此處までの思想で見れば、易者の哲理は決定論に類屬して居た。それは科學の宇宙觀や、唯物主義の人生觀と同じく、すべての現象を、それの生ずる前提條件の因果にたづね、偶然のない宇宙――宿命的、數學的に決定された人生――を説明して居るのである。けれども若しさうだつたら、何人も決して易者の占筮を乞はないだらう。何故といつて我々の運命は、易者の言ふ如く、過去にも、現在にも、未來にも、必然的に避けがたく決定されてる。丁度日影に蒔かれた貧弱の瓜の種から、一つの貧弱の苗が生え、蔓が伸び、やがて貧弱の實が成るやうに、人間の生涯もまた、最初の種と原因とに、すべての發展する將來の結果を内因して居る。瓜がいくら熱心に願つたところで、その他の何物にもなり得る筈がなく、星占學の簿記
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