居る。見ると中には裸體で居るのも少なからずあるのに驚いたが、またそれが特にうれしかつた。良い意味の禮節はなくなつて、儀禮と言へば、惡い方にのみ取られて居る都には見られない質朴さである。これこそ眞に赤裸々そのものである。春になれば自然は生き返る、寒い間の潛勢力を一時に發揮してかかる。草木の新芽をふき出す力の恐ろしさ、堅い石地でも寸土でも、その生を與へる力のあるには驚かされる。今見る滿山の緑はみなこの生の力である。飜つて人間を見ればこの赤裸々の無數の兒童、この山中の僻地の家の數さへ數へつくされる程なる中に、何百と算するこの兒童の群つて居るのも、これまた生の力ではあるまいか。私は今更ら人間と自然との恐ろしい力を感得せざるを得なかつた。アア恁うモラルを説くのは私の歳の所爲だらうか。
私は東京を踏み出すと、その第一には必らず頭を痛める癖があるが、この度は今日になつてそれが始まつた、湖上で頂天から日に照りつけられた爲めであらう。歸りの船は午後一時頃にホテルに著いた。出立は三時といふので、まだ暫らくの猶豫はある。私はこの時間を暫時休まうと思つて、少しよわつた足を船から鎔岩の上に運ばした。そして振り
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