まうばかりさ。」
義男はぽんと女を突き放す樣に斯う云つた。みのるが何も爲《し》得ないと云ふ見極めを付けると一所に、義男には直ぐ明らかな重荷を感じずにはゐられなかつた。義男にしては二人の間を繋いでるものは愛着ではなかつた。力であつた。自分に持てない力を相手の女が持ち得るものでなければ一所には居たくなかつた。女の重荷を、殊にみのるの樣な我が儘の多い女の重荷を引|摺《ず》つてゐては、自分の身體がだん/\に人世の泥沼《ぬま》の中に沈み込んで行くばかりだと思つた。義男はもうこの女を切り放さなければならなかつた。――斯う云ふ時には例《いつ》も手強《てづよ》い抵抗をみのるに對して見せ得る男であつた。直ぐにその塲からでも何方《いづれ》かゞこの家を離れゆくと云ふ氣勢《けはい》をはつきりと見せ得る男であつた。そこには男が特にみのる一人に對して考へてゐる樣な愛なぞは微塵も挾まれなかつた。
「書くわ。仕方がないもの。」
みのるの眼にはもう涙が浮いてゐた。さうして其邊に取り散らかつた原稿を纒《まと》めてゐた。
九
みのるは唯|眞驀《ましぐら》に物を書いて行つた。自分を鞭打つやうな男の眼が
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