前半を直して見なければならなかつた。みのるの自分の藝に對する正直な心が、自から打捨《うつちや》つた作をその儘明るい塲所へ持ち出すといふ樣な人を食つた考へに中々陷らせなかつた。みのるは何時までもその前半を弄《いぢ》つてゐた。
「君はいつまで何をしてゐるんだ。」
それを見付けた義男は直ぐに斯う云つてみのるの傍に寄つて來た。
「到底駄目だから止すわ。」
「駄目でもいゝからやりたまへ。」
「私は矢つ張り駄目なんだ。」
みのるは然う云つて自分の前の原稿を滅茶苦茶にした。
「こんな事はね。作の好い惡るいには由らないんだよ。それは唯君の運一つなんだ。作が駄目でも運さへ好ければうまく行くんだからやつて終ひ給へ。ぐづ/\してゐると間に會やしないよ。」
義男はみのるの手から弄り直してる前半を取り上げてしまつた。それを見たみのるは、
「書きさへすればいゝ?」
斯ういふ意味をその眼にあり/\と含まして、義男の顏を眺めた。その心の底には何となく自暴《やけ》の氣分が浮いてきた。唯義男の強ひるだけのものを書き上げて、さうしてそれを義男の前に投げ付けてやりさへすれば好いんだといふ樣な自暴な氣分だつた。
「私が
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