懷ろ手をした儘で冷えてきた足の先きを着物の裾にくるみながら、いつまでも唐紙のところに寄つかゝつてゐた。そうして兎もすると、男が自分一人の力だけでは到底持ちきれない生活の苦しさから、女をその手から彈きだそう彈きだそうと考へてゐる中を、かうして縋り付いてゐなければならない自分と云ふものを考へた時、みのるの眼には又新らしい涙が浮んだ。
 義男の力が、みのるの今まで考へてゐた男と云ふものゝ力の、層《そう》にしたならその一《ひ》と層《かい》にも足りない事をみのるは知つてゐた。その頼りない男の力にいつまでも取り縋つてはゐたくなかつた。自分も何かしなければならないと云ふ取りつめた考へによく迫られた。けれどもみのるは何も働く事が出來なかつた。義男が今みのるに云つた樣に、義男の前にみのるは何《なに》も爲《し》て見せるだけの力量を持つてゐなかつた。自分の内臟を噛み挫《ひし》いでもやり度いほどの口惜《くや》しさばかりはあつても、みのるは何も爲る事も出來なかつた。みのるは矢つ張りこの力のない男の手で養つてもらはなければならなかつた。
 みのるは溜息をしながら立上ると義男の寢床の方へづか/″\と歩いて行つた。そ
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