祇園の枝垂桜
九鬼周造
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)枝垂桜《しだれざくら》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)京都|祇園《ぎおん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
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私は樹木が好きであるから旅に出たときはその土地土地の名木は見落さないようにしている。日本ではもとより、西洋にいた頃もそうであった。しかしいまだかつて京都|祇園《ぎおん》の名桜「枝垂桜《しだれざくら》」にも増して美しいものを見た覚えはない。数年来は春になれば必ず見ているが、見れば見るほど限りもなく美しい。
位置や背景も深くあずかっている。蒼《あお》く霞《かす》んだ春の空と緑のしたたるような東山とを背負って名桜は小高いところに静かに落ちついて壮麗な姿を見せている。夜には更に美しい。空は紺碧《こんぺき》に深まり、山は紫緑に黒ずんでいる。枝垂桜は夢のように浮かびでて現代的の照明を妖艶《ようえん》な全身に浴びている。美の神をまのあたり見るとでもいいたい。私は桜の周囲を歩いては佇《たたず》む。あっちから見たりこっちから
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