外来語所感
九鬼周造

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呆気《あっけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)自然|淘汰《とうた》
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 ついこの間のことである。私はあるところで「こよみ」を見せてほしいといった。すると「こよみ」とはあなたらしくもない。運勢でも調べるのですかと問われた。来月の某日が何曜日になるかを見たいのだと答えると、それならば「カレンダー」で間に合うでしょうというのである。私はなるほど「カレンダー」かなと思ったが、いくぶんか呆気《あっけ》にとられた。もっとも私自身も郵便を投函する必要のあるとき自動車の運転手に「郵便函があったら留めてくれ」といおうか「ポストがあったらストップしてくれ」といおうか、どっちがよくわかるだろうかと咄嗟《とっさ》に迷うことがある。
「パパ、ママ」排撃を事新しく持ち出すわけではないが、外来語の横行もこんなになってくると深く考えさせられる。もう七年前になるがヨーロッパ滞在から私が帰朝した昭和四年の春、新聞記者が来て何か感想はないかというので、私は往来を歩いてみても到るところ看板その他に英語が書いてあっ
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