ノ表わしている。
 建築は凝結した音楽といわれているが、音楽を流動する建築と呼ぶこともできる。しからば自由芸術たる音楽[#「音楽」に傍点]の「いき」はいかなる形において表われているか。まず田辺尚雄《たなべひさお》氏の論文「日本音楽の理論附粋の研究{4}」によれば、音楽上の「いき」は旋律《せんりつ》とリズムの二方面に表われている。旋律の規範としての音階は、わが国には都節《みやこぶし》音階と田舎節《いなかぶし》音階との二種あるが、前者は技巧的音楽のほとんど全部を支配する律旋法として主要のものである。そうして、仮りに平調《ひょうじょう》を以て宮音《きゅうおん》とすれば、都節音階は次のような構造をもっている。
  平調―壱越《いちこつ》(または神仙)―盤渉《ばんしき》―黄鐘《おうしき》―双調《そうじょう》(または勝絶《しょうせつ》)―平調
この音階にあって宮音たる平調と、徴音《ちおん》たる盤渉とは、主要なる契機として常に整然たる関係を保持している。それに反して、他の各音は実際にあっては理論と必ずしも一致しない。理論的関係に対して多少の差異を示している。すなわち理想体に対して一定の変位を来たして
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