ト実に無数の名で呼ばれている。江戸時代に用いられた名称を挙げても、まず色そのものの抽象的性質によって名附けたものには、白茶《しらちゃ》、御納戸茶《おなんどちゃ》、黄柄茶《きがらちゃ》、燻茶《ふすべちゃ》、焦茶《こげちゃ》、媚茶《こびちゃ》、千歳茶《ちとせちゃ》などがあり、色をもつ対象の側《がわ》から名附けたものには、鶯茶《うぐいすちゃ》、鶸茶《ひわちゃ》、鳶色《とびいろ》、煤竹色《すすだけいろ》、銀煤色、栗色、栗梅、栗皮茶、丁子茶《ちょうじちゃ》、素海松茶《すみるちゃ》、藍《あい》海松茶、かわらけ茶などがあり、また一定の色合を嗜好《しこう》する俳優の名から来たものには、芝翫茶《しかんちゃ》、璃寛茶《りかんちゃ》、市紅茶《しこうちゃ》、路考茶《ろこうちゃ》、梅幸茶《ばいこうちゃ》などがあった。しからば茶色とはいかなる色であるかというに、赤から橙《だいだい》を経て黄に至る派手《はで》やかな色調が、黒味を帯びて飽和の度の減じたものである。すなわち光度の減少の結果生じた色である。茶色が「いき」であるのは、一方に色調の華《はな》やかな性質と、他方に飽和度の減少とが、諦《あきら》めを知る媚態、垢抜
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