ワり執拗《しつよう》に象徴化され過ぎている。直角的屈折を六回までもして「両己相背《りょうこあいそむ》」いている亜字には、瀟洒《しょうしゃ》なところは微塵《みじん》もない。亜字模様は支那趣味の悪い方面を代表して、「いき」とは正反対のものである。
次に一般に曲線を有する模様は、すっきりした「いき」の表現とはならないのが普通である。格子縞に曲線が螺旋状《らせんじょう》に絡《から》み付けられた場合、格子縞は「いき」の多くを失ってしまう。縦縞が全体に波状曲線になっている場合も「いき」を見出すことは稀《まれ》である。直線から成る割菱《わりびし》模様が曲線化して花菱模様に変ずるとき、模様は「派手《はで》」にはなるが「いき」は跡形《あとかた》もなくなる。扇紋《おうぎもん》は畳扇《たたみおうぎ》として直線のみで成立している間は「いき」をもち得ないことはないが、開扇《ひらきおうぎ》として弧《こ》を描くと同時に「いき」は薫《かおり》をさえも留《とど》めない。また、奈良朝以前から見られる唐草《からくさ》模様は蕨手《わらびで》に巻曲した線を有するため、天平《てんぴょう》時代の唐花《からはな》模様も大体曲線から
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