「き」の芸術的表現

 「いき」の芸術形式の考察に移らなければならぬ。「いき」の表現と芸術との関係は、客観的芸術と主観的芸術とによって表現の仕方に著しい差異がある。およそ芸術は、表現の手段によって空間芸術と時間芸術とに分け得るほかに、表現の対象によって主観的芸術と客観的芸術とに分け得る。芸術が客観的であるというのは、芸術の内容が具体的表象そのものに規定される場合である。主観的であるとは、具体的表象に規定されず、芸術の形成原理が自由に抽象的に作動する場合である。絵画、彫刻、詩は前者に属し、模様、建築、音楽は後者に属する。前者は模倣芸術と呼ばれ、後者は自由芸術と呼ばれることもある。さて、客観的芸術にあっては、意識現象としての「いき」、または客観的表現の自然形式としての「いき」が、具体的な形のままで芸術の内容を形成して来る。すなわち、絵画および彫刻は「いき」の表現の自然形式をそのまま内容として表出することができる。さきに「いき」な身振または表情を述べた時に、しばしば浮世絵の例を引くことができたのはそのためである。また広義の詩、すなわち文学的生産一般は「いき」の表情、身振を描写し得るほかに、意
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