《せんめい》された。そうして、平衡を打破して二元性を措定する点に「いき」の質料因たる媚態が表現され、打破の仕方のもつ性格に形相因たる理想主義的非現実性が認められた。

 {1}この問題に関しては、Utitz, Grundlegung der allgemeinen Kunstwissenschaft, 1914, I, S. 74ff. および Volkelt, System der Aesthetik, 1925, III, S. 3f. 参照。
 {2}味覚、嗅覚《きゅうかく》、触覚に関する「いき」は、「いき」の構造を理解するために相当の重要性をもっている。味覚としての「いき」については、次のことがいえる。第一に、「いき」な味とは、味覚が味覚だけで独立したような単純なものではない。米八が『春色《しゅんしょく》恵《めぐみ》の花《はな》』のうちで「そんな色気のないものをたべて」と貶《けな》した「附焼団子《つけやきだんご》」は味覚の効果をほとんど味覚だけに限っている。「いき」な味とは、味覚の上に、例えば「きのめ」や柚《ゆず》の嗅覚や、山椒《さんしょ》や山葵《わさび》の触覚のようなものの加
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