て、「いき」と見られた結振《ゆいぶ》りは銀杏髷《いちょうまげ》、楽屋結《がくやゆい》など略式の髪か、さもなくば島田でも潰《つぶ》し島田、投げ島田など正形の崩れたものであった。また特に粋を標榜《ひょうぼう》していた深川の辰巳風俗としては、油を用いない水髪が喜ばれた。「後ろを引詰《ひっつ》め、たぼは上の方へあげて水髪にふつくりと少し出し」た姿は、「他所《よそ》へ出してもあたま許《ばか》りで辰巳仕入と見えたり」と『船頭深話《せんどうしんわ》』はいっている。正式な平衡を破って、髪の形を崩すところに異性へ向って動く二元的「媚態」が表われてくる。またその崩し方が軽妙である点に「垢抜」が表現される。「結ひそそくれしおくれ髪」や「ゆふべほつるる鬢《びん》の毛」がもつ「いき」も同じ理由から来ている。しかるにメリサンドが長い髪を窓外のペレアスに投げかける所作《しょさ》には「いき」なところは少しもない。また一般にブロンドの髪のけばけばしい黄金色よりは、黒髪のみどりの方が「いき」の表現に適合性をもっている。
なお「いき」なものとしては抜き衣紋[#「抜き衣紋」に傍点]が江戸時代から屋敷方以外で一般に流行した。
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