Xはここに、「いき」と「いき」に関係を有する他の諸意味との区別を考察して、外延的に「いき」の意味を明晰《めいせき》ならしめねばならない。
 「いき」に関係を有する主要な意味は「上品」、「派手《はで》」、「渋味」などである。これらはその成立上の存在規定に遡《さかのぼ》って区分の原理を索《もと》める場合に、おのずから二群に分かれる。「上品」や「派手」が存在様態として成立する公共圏は、「いき」や「渋味」が存在様態として成立する公共圏とは性質を異《こと》にしている。そうしてこの二つの公共圏のうち、「上品」および「派手」の属するものは人性的一般存在[#「人性的一般存在」に傍点]であり、「いき」および「渋味」の属するものは異性的特殊存在[#「異性的特殊存在」に傍点]であると断定してもおそらく誤りではなかろう。
 これらの意味は大概みなその反対意味をもっている。「上品」は対立者として「下品」をもっている。「派手」は対立者に「地味」を有する。「いき」の対立者は「野暮」である。ただ、「渋味」だけは判然たる対立者をもっていない。普通には「渋味」と「派手」とを対立させて考えるが、「派手」は相手として「地味」
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