l的との対照を示した。対他性上の対立は価値とは関係ない対立で、対立者は積極的と消極的とに分れた。六面体では、対自性上の価値的対立と、対他性上の非価値的対立とは、上下の正方形の二対の対角線が六面体を垂直に截《き》ることによって生ずる二つの互に垂直に交わる矩形によって表わされている。すなわち、上品、意気、野暮、下品を角頂にもつ矩形は対自性上の対立を示し、派手、甘味、渋味、地味を角頂とする矩形は対他性上の対立を表わしている。いま、底面の正方形の二つの対角線の交点をOとし、上面の正方形の二つの対角線の交点をPとし、この二点を結び付ける法線OPを引いてみる。この法線OPは対自性的矩形面と対他性的矩形面との相|交《まじわ》る直線にほかならないが、この趣味体系内にあっての具体的普遍者を意味している。その内面的発展によって外囲《がいい》に特殊の趣味が現われて来る。さてこの法線OPは、対自性的矩形と、対他性的矩形とのおのおのを垂直に二等分している。その結果としてできたO、P、意気、上品の矩形は有価値性を表わし、O、P、野暮、下品の矩形は反価値性を表わす。また、O、P、甘味、派手の矩形は積極性、O、P、渋味、地味の矩形は消極性を表わしている。
なおこの直六面体は、他の同系統の種々の趣味をその表面または内部の一定点に含有すると考えても差支ないであろう。いま、すこし例を挙げてみよう。
「さび」とは、O、上品、地味のつくる三角形と、P、意気、渋味のつくる三角形とを両端面に有する三角※[#「※」は「つちへん+壽」、46−2]《さんかくちゅう》の名称である。わが大和民族の趣味上の特色は、この三角※[#「※」は「つちへん+壽」、読みは「ちゅう」、46−2]が三角※[#「※」は「つちへん+壽」、読みは「ちゅう」、46−2]の形で現勢的に存在する点にある。
「雅」は、上品と地味と渋味との作る三角形を底面とし、Oを頂点とする四面体のうちに求むべきものである。
「味」とは、甘味と意気と渋味とのつくる三角形を指していう。甘味、意気、渋味が異性的特殊存在の様態化として直線的関係をもつごとく考え得る可能性は、この直角三角形の斜辺ならざる二辺上において、甘味より意気を経て渋味に至る運動を考えることに存している。
「乙」とは、この同じ三角形を底面とし、下品を頂点とする四面体のうちに位置を占めているものであ
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