ハ直に海老瀬村の消長に関し近くハ更に群馬、埼玉、茨城三県の利害に影響すべし。夫れ境土隣接して河川其間に横はるの地にありてハ、沿岸の人民其利害を一にするものなれバ治水の責任ハ連帯の行為と相待ちて行政区劃の上に異別の関係を存すべきに非ず。果して然らば買収の毒手、谷中村に侵入して全村を攪乱し村民を誘惑し村落を滅亡せしめんとするに当りてハ、吾谷中村と利害興廃を一にせる群馬県ハ須らく自県の安寧を計り自治団体の保全を勉め、更に進んで地勢治水の関係を有せる谷中村を拯ふに吝なる可きにあらず。抑為政の対象ハ人民にあり。人民ハ是れ四海同胞なり。国家機関の分配上府県道庁の区別ありと雖も直に之を以て甲乙二県ハ独立して関せざるものと云ふを得ず。甲乙二県とハ単に名義上の区別にして人類同胞の区別にあらざるなり。若し甲県に於て人民を酷遇せバ乙県之を救ふに於て何の不可か之あらん。是れ正義人道より生ずる当然の義務なり。況や国法と牴触せざる範囲に於てをや。殊に況や二県利害を一にし興廃を共にすべき運命を有するに於てをや。是れ自村の危急日に加はり悪鬼白昼に横行して良民其業に安んぜず村中擾々として如何ともする能ハざるの時ニ当り、
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