樹を濫伐して破堤を赤麻沼の水波に打たしめ、故らに堤防をして風浪に堪えざるものゝ如くし遷延徒に日月を費して其完成を計らず、年々全村をして水害を被らしめ以て村民の窮苦を来たせり。是れ実に明治三十五年以来の事に属す。退て想ふに谷中村買収の動機ハ公共の利益を計るがために非ずして実に鄙人の私慾を全ふせんがために外ならざるなり。是れ公然の事実と裏面の消息と相待ちて炳然又疑ひを容るゝの余地なし。更に次項他村との関係の下に之を弁明せん。
二、谷中村の地たる三面繞らすに河流を以てし、水利の益交通の便実に新来の客を驚かしむるものあり。東南水を隔てゝ茨城埼玉二県と境し西方渡良瀬川を挾みて群馬県に隣す。而して群馬県北海老瀬村ハ谷中村の堤内に在り田園連続して人家近接し地勢上全く同一村落の如くまた他県の観を存せず、両村の人民ハ日常往来して互に葬祭の事に参馳し金融其他土地の貸借労働人夫の交換等をなし其交情掬すべきものあり。是れ両村ハ北に赤麻沼の水地あり西に渡良瀬川の奔下するあり、若し河流一たび氾濫して堤防を破らば洪水ハ両村を襲ふて浮沈を共せざるべからず。されバ両村の人民ハ起臥共に苦楽を同じふするの運命を有するなり。
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