い、そして人民は居馴れた村を失ふ、政府は千五百萬圓の金を失ふ、國家は谷中村といふ富村を失ふのである、併し今ま千五百萬圓掛けると雖も今日の谷中村を拵へることは中々六ヶ敷ことである、之は北海道其他開墾地の例に依りましても中々容易なことでないと私共は思ふて居りますのです。
△其實人心を買ひ崩す[#「其實人心を買ひ崩す」に丸傍点]
然るに之を四十八萬兩の金を以て樂々と手に入ると云ふのだ、土地を買ふと云ふことは唯名のみであつて、其實人を買ひ人心を買つて内から崩して來たから、四十八萬圓の金は土地補償金に非ずして運動費と云ふものが多く其中に掛つて居ります、斯の如く村を潰されることを知らんで居るものが人民の中に居るが爲め斯樣なことに陷つたのであると云ふことを申上げると云ふと、此谷中村の人民と云ふものは餘程惡い奴が多くて意氣地がないやうに御輕蔑もございまして大に諸君の御同情を破ることでございますが、之は谷中村に限らず人民殘らず善いと云ふことには參りませぬ、之を政府が法律責にした時には小兒の腕を大人が捩上るより易い仕事でございます。けれども今日の問題は谷中村の人民が意氣地のない人民だからそ
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