上げる所許りで八百四十三萬六千圓と云ふ金を投じた、尚此外に埼玉、群馬、茨城等の地方税の増加と云ふものを加へましたならば殆ど千萬圓に近い金が出て居る、是は鑛毒と云ふ字を出さないで御話する、鑛毒の害は此外である、之は今日論ずるの時間を許しませぬ、唯山林を荒して河が荒れて道路費の掛ると云ふ經濟上の一ツで、國庫の收入支出の差丈を御覽に入れましたのです。
△失策の發露[#「失策の發露」に丸傍点]
そこで山へ木を植へると云ふことは政府が漸く山を荒し川を荒して惡かつたと云ふことを顧みて斯うしなければならぬと云ふ所から皆出て來る金、皆其既往の失策を補ふ所の金で、古川殿安生殿に山を拂下げた其失策を世間に見せない樣にする金が百八萬圓、六十八萬圓、九萬六千圓、六百五十萬圓、合せて八百四十三[#「四十三」に「〔三十五〕」の注記]萬六千圓となります、斯う云ふのです、之は前の失策を悔いてやつて居る、僅に斯う云ふ譯で、斯う云ふ經濟でございますから豪い經濟學者が政府には澤山ございませうが、何しろ一萬千百圓の金の爲に八百四十三萬六千圓を失つた、さうしてまだ元とのやうにならない、昔のやうにならない、八百四十三萬圓ではどうしても昔の樣な結構な川にはいかぬ、結構な山にはならぬ、百年も經てば昔のやうになるかと云ふ、先づ八百分の一、八百分の一位の金の爲に八百倍の損をすると云ふやうなことは經濟學者と云ふものを頼まぬでも出來ると思ひます。
△何の先非後悔ぞや[#「何の先非後悔ぞや」に丸傍点]
そこで夫を悔るなら宜しい、悔るなら悔ると云ふ一方で往けばまだ宜しい、既往の過失は今責立つても仕方がない、大きに惡かつたと思へば其趣意を貫徹させれば夫で宜しいが、――宜くもないけれどもそれで宜いとして置く、所が一方に金を使ふ所を見ると非常に悔いたやうだけれども、一方には益々やらかして居る、何をやらかして居る、矢張山を荒し河を荒すことをやらかして居る、且荒れた村は面倒臭いから取つて仕舞ふ、斯樣なことをやらかす、利根川の下流に於て六百五十萬圓の金を掛けて河身の改良をして水の流れを宜くすると云つて居りながら、群馬縣利根川の利根[#「利根」に「〔根利〕」の注記]官林で四千町歩を四千圓で拂下げた、是が又大層利根川の荒れることになる、そこで六百五十萬圓掛けて先非後悔で河を渫へて居る、此上の災害の多くならぬやうに、東京府を鑛毒地にしないやうに、水害を蒙らせないやうにやつて居るかと思へば又一方山で木を伐つて居る、此利根郡の利根官林は名義は四千町でございますが、四千町に止らぬ、之れが爲めに利根川が又非常に荒れを來すのだ、現に渡良瀬川の方がそれです。
△豪い經濟家[#「豪い經濟家」に丸傍点]
渡良瀬川と云ふ方も、即ち水源の山へ木を植へる、利根の下流の河身改良をする渡良瀬川も是から人民が安心する樣になるかと思へば、今迄鑛毒地方ではあるけれども、堤防を能く築けば鑛毒の關係のない村は拾つて取つて仕舞ふ方が宜いと云ふので今度は村を取ることを始めた、之れは酷い、去る明治三十二年に計畫して埼玉縣北埼玉郡利島村河[#「河」に「〔川〕」の注記]邊村と云ふ二ヶ村を買收することを埼玉縣會に於いて知事が原案を出し掛けたことがある、それから三十二年に二ヶ村に村債を起すことを勸めたことがある、栃木縣谷中村に村債を起すことも勸め、群馬縣西矢[#「矢」に「〔谷〕」の注記]田村外四ヶ村に借金をして堤防を築くが宜いと云ふことを勸めたのが三十二年で、それから引續いて三十五年に暴風雨に遭ふて河が荒れますと、それを機會として埼玉の二ヶ村を買收する、栃木縣の谷中村を買收することが始つた、遂に之れが三十八年に至つて谷中村を買收することになつた、埼玉縣では村民が買收は怪しからぬと云ふので跳付けて仕舞いましたが、栃木の谷中村の者は其氣力がなくして愚圖愚圖して居つて其村を取られることになりました、始りは鑛毒問題から起つて大部分河川が荒れた、河川が荒れたから國會議員其他政府の人々も將來の豫防として四百萬圓を掛けて、一方は大層世の中に對して將來の畫策が宜いかと思ふと、裏では益々同じやうなことを繰返してやつて居る、其中で甚しきは人民の住んで居る村、最も天産力に富んで居つて作物の出來る村に色々名目を付けて其人民を追出して其村を取つて仕舞ふ、斯う云ふことにまで仕事が進んで來て居る、さうなりますと云ふと是から先はどうであると云へば、利根川は荒れた、關八州の土地は今日迄渡良瀬川のみならず利根川も荒れる、村の數は減る、其國庫の收入金はどうだと云ふと一萬千百圓、四千圓、一萬五千百圓の收入の爲に渡良瀬川通りの村々は潰れ、且つ村を奪取られると云ふことで、利根川は荒れ關東中央は荒廢に歸すると云ふ有樣で、今日迄の金額で見ると一萬千百圓
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