の國庫收入の爲に八百四十三萬六千圓の國庫及地方の支出が明に見へる、其上に金に積れぬ災害は是から將來何程に至るか分らぬ、之は決して鑛毒の御話をせずに唯山が荒れた河が荒れたと云ふ丈國庫の收入と支出、縣の費用や何かの收入支出の一部丈けの御話を申上げた、斯樣な譯でがすから中々どうも今日の經濟と云ふ者は豪い經濟家が居りますからどう云ふ風にやつて拔けますか、私は眞面目でやれば斯う云ふ亂暴はしないでも出來る、誰にも出來る、こんな損害をしないでも誰にも出來る、經濟が、斯う云ふ風に亂れて居るのを以て見ますと、二十億と云ふ借金を仕拔けてやつて往くと云ふのはどう云ふ技倆でやつて往くのですか、定めし豪い腕前の人があるでがせうが、それよりも自分は諸君に御訴へ申すことの急がしいことを申上げる、斯樣な次第から來た結果何事を爲しても日本國民は柔和にしてどう云ふことをしても默許して居る人民であるから、益々錢儲けをするに宜しい、遂に日本始つて以來未だ曾て例を見ない所の、人口の四百以上住んで居る天産力の作物の能く出來る村を金で之を買上げて取つて仕舞ふ、個人の人がなさるならば御勝手次第だけれども、政府と云ふものが左樣なことをすると云ふに至つては何の例にも何の法律にもないことだらうと思ふ、果して法律にないことで、村を買取るのもソツクリ人民を置いて其村を買ふと云ふのでない、其人民を放逐して仕舞ふ、人民を移すと云ふことも四百名の人民を何と云ふ所に持つて往つて茲に地盤を與へて四百名の者をソツクリ團體力を壞さずに居るのでない、甲の村を乙の村に移すと云ふのではない、四百五十名の人民を四方八方に追散して仕舞ふ、して見れば一ヶ村が正に潰れて仕舞ふ、此村を潰す費用を四十八萬圓と云ふ金を掛けた、さうして四十八萬圓と云ふ金を掛けて村を買取る、買取るのではない、買取ると云ふのは名で、四十八萬圓と云ふ運動費だ、四十八萬圓の金を掛けて此村の人民を放逐して仕舞ふ、人民を窘め散して追出して仕舞ふ、其費用が四十八萬圓であつて、決して四十八萬圓と云ふ金を以て谷中村を栃木縣廳が取上げるなどゝ云ふやうなものでない。
△谷中村買收問題[#「谷中村買收問題」に丸傍点]
世の中では能く谷中村買收問題は四十八萬圓で人民の所有地を買ふものだと云つて居る、大間違で、四十八萬圓と云ふ金は幾らか田畑に渡すが、此金の性質は實際人民をして流離顛沛乞食たらしめる運動費である、斯樣なことが世の中に在る、唯流離顛沛乞食たらしめる運動費と申上げては御分りになりますまいから少しく理由を申上げますが、一體人民が何故にタツタ四十八萬兩許りの金で其物を賣るかと申しますと、是には種々なる御話がございまして、一體此村の價と云ふものはどうしても現在ある所のものは七百萬圓のものはある、此の七百萬圓と云ふ品は何百年の間に拵へたものかと云ひますと、四百年からのものである、四百年の間に人民が段々積立てゝ來た、そこに殘つて居るものが今日現場で七百萬圓以上が物はある、此七百萬圓の物を拵へるのには四百年の星霜を經て居りますから何程掛つて居るか分らぬ、現に此の村で一ヶ村を守る堤防費も、新築するに三百五十萬圓掛る、其外田畑宅地立木容易なものでない、開墾費もある、之を一倍としても千五百萬兩のものはある、千五百萬圓は今日の村の總收入額を一分の利として割出して出る所のものです、斯樣な譯です、さうでがせう、今日の戸數は四百五十戸ある、四百五十戸ある村を拵へるのでがすから二三百萬圓で出來るものでない、されば現物が七百萬兩が物があるから七百萬兩で政府が買つたならば穩當なやうだ、一寸考へると七百萬兩で賣れば宜いやうでございます、七百萬兩が物があれば七百萬兩で賣つたら宜からうと云ふと大變經濟上のことを知らぬ人民は大喜びで、七百萬兩掛けた甲の村を捨てゝ乙の新村を造るに七百萬兩のものが出來るかと云ふと、夫は出來ない、前の七百萬兩は唯今申しました通り四百年間掛つて段々と積立つて殘つたものが七百萬兩である、此七百萬兩で以て新規に拵へやうと云つたら迚も前の谷中村丈のものが出來るものでない、だから七百萬兩では引合はぬから其村の總收入の現在作物の取れる收入の利益の一分まで漕付けると千五百萬兩で濟むから、假に政府として千五百萬兩で以て人民を移すとどうなるかと云へば、甲村の人民を乙へ移して原野を開いて拵へると千五百萬兩掛けて七百萬兩殘る、之は餘程器用に往つてさうです、中々北海道の開墾はこんな風に往くものでありませぬが、器用に往つたら千五百萬兩掛けたら七百五十萬兩の物が殘るかと云ふ位、是位の物を僅か四十八萬兩で買潰すと云ふことは買ふのではない、村を取るの運動費に過ぎないのである、唯の四十八萬圓、其四十八萬兩も公平に使ふかと云ふと不公平極つた使ひ方で、七萬五千兩を以て排水器を買つたと云
前へ
次へ
全13ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 正造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング