ら報酬が來て骨を折つた方が水泡になるから、頭がめつちやになつて權利も經濟も何も無い。權利と云ふことを知らざるに非ず、知つて居るが之を天なりとして棄てることが多い。又た經濟を知らざるに非ず、知つて居るけれども豫算と云ふ頭の乏しいのはどうも據ない、土地の風俗でありますので。其上に此鑛毒と云ふものゝ來ることを知らずに居つたのが十年――第一此の鑛毒と云ふものは、洪水の時に水の中に這入つて來るのでございますからして一寸分からない。分らないで、當年は稻の出來が惡るい、是は虫のせいであろう、氣候のせいであろう。――十年經つて作物が出來なくなつて、是は鑛毒と云ふものだそうだと云ふことが見付かつた時は、最早既に間に合はない。
 尚ほクド/\しい御話でございますけれども一つ申して置くことがある。洪水は恐るべきであるが肥料が來る魚が來る、或場合、鑛毒の無い前には洪水を歡迎した位である、即ち天災を歡迎すると云ふ場合があつた。洪水が來て米も取れないが魚も取れない、双方とも取れなくなつたのは鑛毒の爲である。鑛毒と云ふものを知らずに居る事が十年で、其間鑛毒が諦めの可い天災の中に這入つて歡迎を受ける。天災の中に鑛毒が
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