する、明日は早くに妹共の誰れなりとも、一人は必らず手傳はすると言ふて下され、さてさて御苦勞と蝋燭代などを遣りて、やれ忙がしや誰れぞ暇な身躰を片身かりたき物、お峰小松菜はゆでゝ置いたか、數の子は洗つたか、大旦那はお歸りに成つたか、若旦那はと、これは小聲に、まだと聞いて額に皺を寄せぬ。
石之助其夜はおとなしく、新年《はる》は明日よりの三ヶ日なりとも、我が家にて祝ふべき筈ながら御存じの締りなし、堅くるしき袴づれに挨拶も面倒、意見も實は聞あきたり、親類の顏に美くしきも無ければ見たしと思ふ念もなく、裏屋の友達がもとに今宵約束も御座れば、一先お暇として何れ春永《はるなが》に頂戴の數々は願ひまする、折からお目出度矢先、お歳暮には何ほど下さりますかと、朝より寢込みて父の歸りを待ちしは此金《これ》なり、子は三界の首械《くびかせ》といへど、まこと放蕩《のら》を子に持つ親ばかり不幸なるは無し、切られぬ縁の血筋といへば有るほどの惡戲を盡して瓦解《ぐわかい》の曉に落こむは此淵、知らぬと言ひても世間のゆるさねば、家の名をしく我が顏はづかしきに惜しき倉庫《くら》をも開くぞかし、それを見込みて石之助、今宵を期限の借
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング