故郷を離れしも我が伯母君を捨てたりしも、此雪の日の夢ぞかし。
 今さらに我が夫を恨らみんも果敢《(はか)》なし、都は花の見る目うるはしきに、深山木《(みやまぎ)》の我れ立ち並らぶ方なく、草木の冬と一人しりて、袖の涙に昔しを問へば、何ごとも総《す》べて誤なりき、故郷の風の便りを聞けば、伯母君は我が上を歎げき歎げきて、其歳の秋かなしき数に入り給ひしとか、悔こそ物の終りなれ、今は浮世に何事も絶えぬ、つれなき人に操を守りて知られぬ節《ふし》を保《たも》たんのみ、思へば誠と式部が歌の、ふれば憂さのみ増さる世を、知らじな雪の今歳も又、我が破れ垣をつくろひて、見よとや誇る我れは昔しの恋しき物を[#地から2字上げ](完)



底本:「新日本古典文学大系 明治編 24 樋口一葉集」岩波書店
   2001(平成13)年10月15日第1刷発行
初出:「文学界 第三号」
   1893(明治26)年3月31日
※括弧付きのルビは校注者が加えたものです。
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2007年8月9日作成
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