やうに下りてつく/″\と打まもれば、貴孃《あなた》は齋藤の阿關さん、面目も無い此樣《こん》な姿《なり》で、背後《うしろ》に目が無ければ何の氣もつかずに居ました、夫れでも音聲《ものごゑ》にも心づくべき筈なるに、私は餘程の鈍に成りましたと下を向いて身を恥れば、阿關は頭《つむり》の先より爪先まで眺めていゑ/\私だとて往來で行逢ふた位ではよもや貴君と氣は付きますまい、唯た今の先まで知らぬ他lの車夫さんとのみ思ふて居ましたに御存じないは當然《あたりまへ》、勿體ない事であつたれど知らぬ事なればゆるして下され、まあ何時から此樣な業《こと》して、よく其か弱い身に障りもしませぬか、伯母さんが田舍へ引取られてお出なされて、小川町《をがはまち》のお店をお廢めなされたといふ噂は他處《よそ》ながら聞いても居ましたれど、私も昔しの身でなければ種々《いろ/\》と障る事があつてな、お尋ね申すは更なること手紙あげる事も成ませんかつた、今は何處に家を持つて、お内儀さんも御健勝《おまめ》か、小兒《ちツさい》のも出來てか、今も私は折ふし小川町の勸工場|見物《み》に行まする度々、舊のお店がそつくり其儘同じ烟草店の能登《のと》や
前へ
次へ
全29ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング