る事とては一から十まで面白くなく覺しめし、箸の上げ下しに家の内の樂しくないは妻が仕方が惡いからだと仰しやる、夫れも何ういふ事が惡い、此處が面白くないと言ひ聞かして下さる樣ならば宜けれど、一筋に詰らぬくだらぬ、解らぬ奴、とても相談の相手にはならぬの、いはゞ太郎の乳母として置いて遣はすのと嘲つて仰しやる斗《ばかり》、ほんに良人といふではなく彼の御方は鬼で御座りまする、御ゥ分の口から出てゆけとは仰しやりませぬけれど私が此樣な意久地なしで太郎の可愛さに氣が引かれ、何うでも御詞に異背せず唯々《はい/\》と御小言を聞いて居りますれば、張も意氣地《いきぢ》もない愚《ぐ》うたらの奴、それからして氣に入らぬと仰しやりまする、左うかと言つて少しなりとも私の言條を立てて負けぬ氣に御返事をしましたら夫を取《とつ》こに出てゆけと言はれるは必定、私は御母樣出て來るのは何でも御座んせぬ、名のみ立派の原田勇に離縁されたからとて夢さら殘りをしいとは思ひませぬけれど、何にも知らぬ彼の太郎が、片親に成るかと思ひますると意地もなく我慢もなく、詫て機嫌を取つて、何でも無い事に恐れ入つて、今日までも物言はず辛棒して居りました、御
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