月の夜
樋口一葉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)村雲《むらくも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)お月さま[#「お月さま」は底本では「おさま」]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)夜《よ》な/\
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村雲《むらくも》すこし有るもよし、無きもよし、みがき立てたるやうの月のかげに尺八の音《ね》の聞えたる、上手ならばいとをかしかるべし、三味《さみ》も同じこと、琴《こと》は西片町《にしかたまち》あたりの垣根ごしに聞たるが、いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、物《もの》がたりめきて床《ゆか》しかりし、親しき友に別れたる頃の月いとなぐさめがたうも有るかな、千里《ちさと》のほかまでと思ひやるに添ひても行かれぬものなれば唯うらやましうて、これを仮《かり》に鏡となしたらば人のかげも映《うつ》るべしやなど果敢《はか》なき事さへ思ひ出でらる。さゝやかなる庭の池水《いけみづ》にゆられて見ゆるかげ物いふやうにて、手すりめきたる処《ところ》に寄りて久しう見入るれば、はじめは浮きたるやうなりしも次第に底ふ
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